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2025.07.01 コラムインド
【特別コラム】モディ政権3期目のインド トランプ政権の嵐の中でも堅調な発展が期待

インドでは202446月の総選挙が行われ、与党連合が勝利し、モディ政権は3期目に入ったものの、与党インド人民党(BJP)は議席を大幅に減らしました。インフレや経済成長の恩恵が受けられなかった農業従事者、失業者の不満が影響したとみられています。強力なリーダーシップで党を率いてきたモディ首相の求心力にも陰りが生じていると言われるようになりました。

 

しかしモディ政権は、これまでの産業強化政策に加え、低所得層や農業従事者への支援を強化し、インフレも沈静化に向かいました。その後の地方選挙では、野党側の足並みの乱れもあり、BJPはマハラシュトラ州やデリーなど主要な地域で勝利。モディ首相は党内での地位をあらためて固めたとみられています。当面、モディ政権は選挙の圧力にさらされることがなく、財政規律を維持しながら、減税、インフラ整備、製造業支援、規制改革、貿易自由化といった成長重視の政策を推進しています。

 

そうした中で、今年1月にトランプ米政権が発足し、インドには26%もの高い水準の「相互関税」が科されました。しかしモディ政権は、トランプ政権の政策を見越して一部の品目の関税を下げ、日本や英国と並んでいち早く米国との交渉を開始しました。トランプ大統領はインドとの関係を非常に重視しており、関税の一時停止の期限である79日までに暫定合意に至る可能性は十分にあると考えられます。なお、インドの対米輸出のGDP比は2%程度に過ぎず、インドの強みであるサービス輸出は対象になっていないため、他国と比べると、高関税の影響は限定的とみられます。

 

5月にはパキスタンとの軍事衝突が発生しましたが、4日後に停戦に至りました。パキスタンとの緊張は続いていますが、両国とも軍事衝突は望んでおらず、インドはパキスタンに経済的圧力をかけていく方針をとっています。この問題がインド経済に大きな影響を与えることは想定されておらず、またインド国内ではモディ首相の支持率は7割以上に高まっています。

 

インド経済は、2024年度(20244月~20253月)の実質GDP成長率が前年度比+6.5%と前年度の+9.2%から大きく減速したものの、インフレの沈静化と中銀の利下げにより、202546月期の成長率は前年同期比+7.4%に達しており、足元では回復傾向にあります。IMFは米国の高関税を織り込んだ上で、2025年度の見通しを+6.2%としています。世界経済は不確実性を増していますが、インドは内需中心の経済のため、外的ショックによって大きく落ち込むことはなく、前述のとおり国内政治も外交も安定的な状況にあり、今後も堅調な発展を続けていくことが予想されます。

 

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト 石井順也

https://www.scgr.co.jp/analyst/junya_ishii/

 

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