トピックスtopics

2025.05.01 コラムインドネシア
【特別コラム】トランプ関税とアジア

トランプ米政権の関税政策が世界を揺さぶっていますが、インドネシアも例外ではありません。全世界に適用される鉄鋼・アルミ関税と自動車関税に加え、特に大きな衝撃を与えているのは、4月2日に発表された、国ごとに異なる関税率が設定される「相互関税」です。インドネシアには32%という高い水準が設定され、IMFが4月22日に発表した世界経済見通しでは、2025年のインドネシアの経済成長率は従来の見通しから0.4%下がり、4.7%にとどまるとの予想が示されました。もっとも、インドネシアの対米輸出は経済全体の中でそれほど大きな割合を占めるものではなく、GDPの約2%にとどまります。このため、タイ、マレーシア、ベトナムといった、対米輸出依存度が高い他ほかの東南アジア主要国と比べると、その影響は限定的と考えられます(下図参照)。

               (出所:米ホワイトハウス、米商務省、IMF、UN)
              ※米財貿易赤字、対米輸出金額、GDP比は2024年

トランプ米政権は4月9日に相互関税の上乗せ分の90日間の停止を発表しましたが(10%の一律関税は継続)、プラボウォ政権は、迅速にトランプ政権との関税交渉に乗り出し、早くも4月17日に米国で閣僚レベルの協議が行われました。インドネシアのアイルランガ調整相(経済担当)は、米国からのエネルギー(石油、ガス)と農産物(大豆、小麦等)の輸入拡大、重要鉱物分野の協力による米国からの投資促進、非関税障壁の解消に向けた取り組みなどを米側に伝えています。

プラボウォ大統領は、現地調達基準(国産化規制)の緩和や輸入割当量の廃止に取り組むことで、非関税障壁の解消を実現すると明言しました。これらの保護主義的な措置は、インドネシアの伝統的な保護主義を体現するものであり、かねてから産業界から改善の要望が寄せられていました。プラボウォ政権の経済政策は自国中心的な傾向がみられ、外国投資家から警戒される面もあったのですが、トランプ米政権の関税政策を受け、改革に向けた機運やテクノクラートの存在感が高まっているようです。トランプ米政権の大胆な政策により、世界経済は不確実性を強めていますが、外的環境の変化が国内改革への原動力をもたらし、長い目で見れば投資環境の改善につながる可能性も出てきています。

 

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト 石井順也
https://www.scgr.co.jp/analyst/junya_ishii/

閉じる