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2025.03.01 コラムベトナム
【特別コラム】 新たな体制の下、大胆な改革とさらなる高成長を目指すベトナム

2024年のベトナムの実質GDP成長率は前年比+7.1%に上りました。前年(+5.1%)から大幅に加速し、政府目標(+6.8~7.0%)を上回る好調な結果となりました。通年での成長率が7%を超えるのは、コロナ禍の反動で+8%に上った2022年以来であり、1人当たりGDPは4,700ドルに達しました(下図参照)。ベトナム共産党は2021年の党大会で、2025年に1人当たりGDPを4,700~5,000ドルを目指すと宣言しましたが、その目標を1年前倒しで達成したことになります。

ベトナムの経済成長の大きなドライバーになっている輸出は、今後、米トランプ政権の保護主義的政策により、成長のペースが緩やかになる可能性があります。ベトナムは米国にとって主要な貿易赤字国の一つであり(2024年の貿易統計では中国、メキシコに次いで3位)、トランプ大統領は声高にベトナムを批判しています。米国との関係をどのようにマネージするかはベトナムにとって大きな課題の一つになるでしょう。一方、国内での消費と投資については、今後も堅調な拡大が見込まれます。海外からの投資も、トランプ政権の対中強硬政策により、脱中国シフトが続くことで、やはり堅調な拡大が続くとみられます。こうした状況を受け、先月、国会は、2025年の実質GDP成長率の目標を+8%以上に引き上げることを承認しました。

ベトナムでは、昨年8月、トー・ラム新書記長を中心とする新たな体制が発足しました。亡くなったチョン前書記長の体制下では、政争が激化し、党・国家の中枢にある幹部たちの辞任が相次ぎましたが、指導部が固まったことで、政治情勢は安定したとみられています。新たな体制は、腐敗の撲滅とともに、省庁の統合や公務員の削減など、統治機構の合理化を大胆に進め、また南北高速鉄道や原子力発電所の開発など、これまで中断していた大型プロジェクトを再稼働させようとしています。トランプ政権の関税政策に対処しつつ、来年に5年に一度の党大会を控える中、積極的な政策によってさらなる成長を目指す姿勢がうかがえます。一時的に行政手続きなどに影響が出る可能性はありますが、長期的には、ベトナムの投資先としての魅力がさらに高まることが期待されます。

 

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト 石井順也
https://www.scgr.co.jp/analyst/junya_ishii/

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