2025.01.01
コラムバングラデシュ
【特別コラム】ユヌス暫定政権の下、改革と総選挙の準備を進めるバングラデシュ
バングラデシュでは、8月にハシナ首相が辞任し、ムハマド・ユヌス首席顧問率いる暫定政権が発足しました。6月に裁判所が公務員採用の優遇枠を復活させる判決を言い渡したことで抗議デモが発生し、それがハシナ首相の辞任を求める大規模な抗議活動に発展したことで、同首相は辞任を余儀なくされ、インドに逃れました。突然の事態でしたが、グラミン銀行の創設者で2006年にノーベル平和賞を受賞したユヌス博士が首席顧問に就任し、暫定政権が迅速に発足したことで、状況は安定し、治安の悪化や経済の混乱も短期間で収まりました。米国やEU、中国、インドなど諸外国は暫定政権への支持を表明し、日本も民主的な政権移行のプロセスを支えるとの立場を強調しています。
バングラデシュでは過去に4回、選挙で選ばれた政権の任期が終了した後、次の政権に移行する間に暫定政権が発足しています。ユヌス首席顧問は今月中旬、2025年末か2026年前半までに総選挙を実施する可能性があると述べました。選挙を行うにあたっては、有権者名簿を作成し、選挙制度の改革などを行う必要があると説明されています。暫定政権は複数の委員会を立ち上げ、選挙制度のみならず、憲法や司法制度などの見直しを行っています。時間がかかりますが、国民から高い支持を受けているユヌス氏がトップに立って改革を進めることは、長期的なバングラデシュの発展にとってプラスになると考えられます。米欧をはじめとする国際社会から広い支持を受けていることもポジティブな変化といえます。
バングラデシュの経済は、新型コロナ禍によって2019年度(2019年7月~2020年6月)には成長率が前年度比+3.5%に低下しましたが、2020年度には+6.9%に回復し、その後は+5~7%台の成長を続けています。2024年度も、上記政権交代の混乱があったにもかかわらず、IMFは+5.4%の成長を見込んでいます。当面の課題は高インフレと外貨準備の維持です。インフレは10月時点で前年同月比+10.9%と高い水準が続いていますが、一時期よりも大幅に低下しており、今後も鈍化が見込まれます。外貨準備については、IMFの支援を受けながら、最低限必要な水準を維持しています。暫定政権が取り組むべき課題は多いですが、この機会にガバナンスを改善し、改革と選挙を経て、さらに力強い発展に向かうことを期待したいところです。
住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト 石井順也
https://www.scgr.co.jp/analyst/junya_ishii/